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相続した実家はいつ売るべき?新・生前贈与ルールと後悔しない売却タイミング
親から実家を相続したものの「いつ売るべきか」「売るか残すか迷う」「売った後で後悔したくない」と悩む方は多いでしょう。
特に、最近では生前贈与・相続税制度にも改正が入り、従来の売却タイミング戦略が通用しなくなりつつあります。
本記事では、相続した実家を後悔せずに手放すための知識と判断の軸を紹介します。
新たに変わった生前贈与ルールや相続対策、売却タイミングのメリット・デメリット、税務手続き、を解説します。
まずは、実家売却を考える前に押さえておくべき基本的なポイントを確認しましょう。
実家を売る前に知っておくべき基本知識

⚫︎実家・相続不動産とは何か
「実家」といっても、その中身はさまざまです。
建物付きの宅地、すでに更地にしてある土地、店舗や駐車場として一部を賃貸に出している場合、空き家化して老朽化が進んでいる場合など状況によって、取るべき手続きや売り方は大きく変わります。
相続で取得した不動産は、思い出や感情だけで判断せず、“資産”として客観的に整理することが重要です。
まずは現状把握が出発点です。
具体的には、
①取得時の評価額や相続税申告の内容
②登記名義(単独か共有か/未登記の有無)
③毎年の維持費(固定資産税・都市計画税、火災保険、草刈りや雨漏り対応などの管理費)
④立地や接道状況・用途地域などの法的条件
⑤建物の状態(耐震性、雨漏り、設備の劣化、残置物の有無)を一覧化します。
併せて、賃貸中であれば賃貸借契約の内容や敷金の精算、空き家なら近隣への安全配慮、境界未確定なら測量の必要性、といった論点も早めに確認しておくと、売却方針(解体して更地売り/リフォームして建物付き売り/賃貸継続での投資用売り)をスムーズに決められます。
共有名義や相続人間の合意、古い抵当権・差押えなどの権利関係が残っていると、売却の実務が止まることもあります。
感情的な対立が生まれやすいテーマだからこそ、情報を可視化し、必要に応じて専門家へ早めに相談するなどの準備が、売却のスピードと最終的な手取りを大きく左右します。
⚫︎売却までの流れ
相続した実家を売却する流れは、基本的には通常の不動産売却と同じです。
ただし、相続特有の手続きや法律的なハードルがあるため、以下の手順をしっかり理解しておきましょう。
1.不動産会社に査定を依頼する
まずは複数の不動産会社に査定を依頼し、市場価格の目安を把握します。
訪問査定では現地の状況や近隣環境まで含めた正確な評価が可能です。
2.売出価格の決定と販売戦略の立案
査定価格を参考にしながら、売主として希望する売却額とスピード感のバランスを考えて、売出価格を設定します。
売却の方法(仲介 or 買取)もこの段階で選びます。
3.買主との交渉・媒介契約の締結
不動産会社と媒介契約を結び、広告や案内を通じて買主を探します。
条件交渉や内見対応などもこの段階で行われます。
4.売買契約の締結→決済・引渡し
条件がまとまれば、売買契約を結び、登記や決済などの引渡し手続きを行います。
売却益が出た場合には、後述の通り税務申告が必要です。
5.税務申告と最終的な清算
譲渡所得税や住民税など、必要に応じて確定申告を行い、売却にかかる諸費用(仲介手数料、登記費用など)を清算して完了となります。
相続による売却の場合は、上記に加えて以下のような相続特有の手続きが加わることに注意してください。
・相続登記(名義変更)の完了
・遺産分割協議書の作成と署名押印(相続人が複数いる場合)
・遺留分の請求対応(相続トラブルがある場合)
これらの作業は、不動産会社だけでなく司法書士や税理士との連携も必要になるため、早めの準備と相談がカギとなります。
生前贈与の新ルール

「生前贈与で財産を早めに渡しておけば、相続税を減らせる」
そんな常識が、いま大きく見直されようとしています。
2024年以降、相続税に関わる生前贈与の加算期間が拡大され、対策の仕方も変わってきました。
ここでは、税制改正のポイントと、これからの相続対策で意識すべき点をわかりやすく解説します。
⚫︎相続税に影響する「加算期間」が3年→7年に延長
相続税の「生前贈与加算」は、令和6年(2024年)1月1日以後の暦年課税に係る贈与から、加算対象期間が段階的に拡大されます。
相続開始日が令和9年(2027年)1月1日~令和12年(2030年)12月31日の場合は、「2024年1月1日から相続開始日まで」に行われた贈与が加算対象です。
令和13年(2031年)1月1日以後に相続が開始したときは、従来の3年から7年以内に行われた贈与が加算されます。
また、相続開始日が令和9年(2027年)1月2日以後の相続については、加算対象期間内のうち「相続開始前3年以内」以外の贈与分(=4~7年前相当)について、その合計から100万円までは相続財産に加算しません(1回限り・総額で100万円)という取扱いが設けられました。
【例】
相続開始の6年前に親から現金500万円の贈与を1回受けていた場合
→相続開始日が2027年1月2日以後なら、4~7年前相当の贈与分に対する100万円控除を適用し、500万円-100万円=400万円が相続財産に持ち戻されます。
以上より、「毎年110万円以内で贈与しておけば安心」という単純な対策は通用しにくくなります。加算期間の延長や100万円控除の適用起点(2027年1月2日以後)を踏まえ、相続開始時期の見込みや贈与の時期を含めた設計が重要です。
【参考資料】
国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
⚫︎相続時精算課税制度
もう一つ注目すべきは「相続時精算課税制度」の改正です。
これは、贈与時に贈与税をかけず、相続時に一括して精算する仕組みですが、2024年以降は次のような変更があります。
- 年110万円の基礎控除が新設
相続時精算課税を選んだ受贈者は、特定贈与者ごとにその年の贈与額から110万円を差し引けるようになりました。贈与額がその110万円以内なら申告不要です。
- 2,500万円の特別控除は維持
贈与税の計算は「贈与額 −(相続時精算課税の)基礎控除110万円 − 特別控除2,500万円」の順で控除し、残額に一律20%を適用します。
- 相続時には“合算して精算”
相続時は、その特定贈与者からの贈与財産を贈与時の価額で相続税の課税価格に合算します。
令和6年(2024年)以後の贈与分は、各年の贈与額から110万円を差し引いた残額を合算対象とします(既納の贈与税は相続税から控除/還付)。
- 一度選ぶと暦年課税に戻せない(同一贈与者について)
相続時精算課税を選択すると撤回不可。
その特定贈与者からの将来の贈与は引き続き相続時精算課税で扱われます。
- 主な要件・手続(抜粋)
贈与者:その年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母等
受贈者:同日に18歳以上の直系卑属(推定相続人等)。
選択時は期限内申告や選択届出書の提出が必要です。
【参考資料】
実家を売るタイミングはいつがベスト?
「相続した実家、今すぐ売るべき?」「しばらく保有してからのほうがいい?」
実家の売却タイミングは、相続後の大きな悩みの一つです。ですが、残念ながら全員にとっての正解はありません。
タイミングを誤ると、損をしたり、思わぬ負担が発生することも。
ここでは、売却時期ごとのメリット・デメリットと、判断する際のポイントをわかりやすく解説します。
1.相続後すぐに売却するパターン
このケースは、相続登記(名義変更)を済ませた直後、なるべく早い段階で実家を売却するという選択です。
相続人の間で意思がまとまり「今後この家を使う予定がない」とはっきりしている場合に多く選ばれます。
大きなメリットは、老朽化や空き家によるトラブルを未然に防げることです。
放置された空き家は、建物の傷みや雑草・ごみの問題、近隣からの苦情など、想像以上にリスクが高まります。
また、実家の保有には固定資産税や火災保険、管理費といったコストが発生します。
売却によってこれらの維持費を早期に解消できるのは経済的なメリットです。
さらに、売却で得た資金を、相続税や他の相続人への代償金の支払いに充てることも可能です。
相続税の納付は原則10か月以内と短いため、現金化しておくことは非常に実用的な選択と言えるでしょう。
一方で、感情的な整理がつかないまま手放してしまうリスクもあります。
長年家族が過ごした場所であるため、急いで決断することで「もう少し考えてからにすればよかった」と後悔するケースもあるのです。
時間に追われて売却を進めると、不動産市場の動向を見極める余裕がないこともあります。
地域によっては、季節や相場の変動で数十万円〜百万円以上の価格差が出ることもあり得ます。
「売却後の資金の使い道が決まっている」「実家に戻る可能性がゼロ」といった明確な判断軸がある場合は、相続後すぐに売却することで、精神的にも経済的にも負担を減らすことができます。
ただし、判断に迷いがある場合は、まず簡易査定だけを行い、価格感を掴んでおくこともおすすめです。
2.1〜3年ほど様子を見てから売る
相続後すぐには売らず、1〜3年ほど実家を保有しながら状況を見てから売却するという選択肢もあります。
「すぐに決断するには心の整理がつかない」「家族と十分に話し合いたい」といった事情がある場合や、「将来的に価値が上がるかもしれない」と考える人に多いパターンです。
このタイミングの最大のメリットは、売却に向けた準備期間をしっかり持てることです。
たとえば、家の片付けやリフォーム、相続人同士の話し合いなどを焦らず行えるため、より納得感のある売却に繋がります。
また、エリアによっては今後の再開発やインフラ整備によって不動産価値が上昇する可能性もあります。
短期間の価格上昇が見込める地域であれば、あえて時期をずらして売ることで有利に働くケースもあるのです。
さらに、相続した実家を一時的に貸し出すことで、賃料収入を得つつタイミングを見計らうといった運用も可能です。
一方で、空き家状態のまま放置しておくリスクは看過できません。
人が住まない家は想像以上に劣化が進みやすく、いざ売ろうとしたときに「修繕が必要」「買い手がつきにくい」といった問題に直面する可能性があります。
当然ながら固定資産税や管理費用といった維持コストは継続的に発生します。
特にマンションであれば管理費・修繕積立金の負担が重くのしかかります。
タイミングを見ていたつもりが、結局ズルズルと決められないまま数年が経ってしまったというケースも少なくありません。
様子見を続けることが結果的に機会損失にならないよう、定期的に判断する機会を設けることが大切です。
3.5年以上保有してから売る
相続した実家をすぐには売らず、5年、10年と長期間にわたって保有し、その後売却するという選択肢もあります。
「いつか自分で住むかもしれない」「子どもが使うかも」といった将来の可能性を考えたり、「地価が上がるのを待ちたい」という期待を持って保有を続けるケースです。
メリットは長期的な視点で見れば、再開発やインフラ整備、地域の需要増加などによって資産価値が上がる可能性もあります。
特に都市近郊や駅近のエリアでは、何年も経ってから高値で売却できたという例もあります。
また「すぐに決断するのは心苦しい」「思い出の詰まった家だから急いで手放したくない」といった感情面からも、長く保有することに安心感を持つ方は多いです。
保有している間に気持ちの整理がつき、兄弟や親族との合意も得やすくなるといった精神的なメリットもあります。
ただし、長期保有にはコストとリスクがつきものです。
特に空き家状態のままにしておくと、建物の老朽化が進み、最終的に「解体しないと売れない」「価値が下がってしまった」という事態になりかねません。
5年以上の保有中には、税制や法律の変更によって有利な特例が使えなくなる可能性もあります。
固定資産税の軽減措置が外れたり、空き家として行政から指導を受けるリスクもあるため注意が必要です。
さらに、「売るタイミングを逃してしまった」「家族が増えて意見が割れた」といった意思決定の先延ばしによる弊害も起こりやすいことも難点です。
「将来使う可能性がある」「地価の上昇を見込める」という明確な根拠があれば、長期保有という選択は十分に合理的です。
ただし、その間の維持管理コストやリスクも踏まえ、最低でも年1回は売却も含めた見直しを行うことが大切です。
必要に応じて、不動産会社や税理士、空き家管理サービスなどの専門家を上手に活用して、適切な保有判断を続けましょう。
売却時期ごとのメリット・デメリット
「相続した実家、いつ売るのがベストなのか?」
タイミングによって、コスト・精神的負担・価格面の有利不利が大きく変わるため、冷静な比較が必要です。
以下の表では、相続直後・1〜3年後・5年以上保有の3つの売却タイミングについて、それぞれのメリット・デメリットを整理しました。
■ 売却時期別 比較表
| 売却タイミング | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 相続直後 | - 維持費・空き家リスクをすぐに解消できる - 相続税納税の資金を確保しやすい - 感情的に割り切りやすい場合も | - 精神的な整理がつく前に判断が必要 - 市場調査や準備の時間が取りにくい |
| 1〜3年後 | - 家族での相談や片付けなど準備期間を確保できる - 地域によっては価格上昇を狙える可能性あり - 状況を見ながら柔軟に判断できる | - 維持費・固定資産税がかかり続ける - 空き家の老朽化や防犯面の不安がある - 売り時を逃すリスクも |
| 5年以上保有 | - 再開発・インフラ整備などによる地価上昇に期待できる - 感情や家族関係の整理に時間をかけられる | - 老朽化で価値が下がるリスクが高まる - 空き家対策法による税負担の増加リスク - 売却判断を先送りしがちで後悔の可能性も |
売るか残すか迷ったときの判断チェック

相続した実家を売るか、残すか。
それは、誰にとっても簡単に決められることではありません。
思い出の詰まった家を手放すことへの迷いや、将来的な活用の可能性、家族との関係性、そして経済的な事情などさまざまな感情や要素が絡み合います。
そんなときは、いくつかの視点から整理してみることが、後悔しない判断につながります。
(1)感情・家族的要素
思い出や仏壇・墓守など感情の重みは、経済合理性では測れない重要条件です。
まずは「手放しても後悔しないか」を自問し、写真や記録のデジタル保全、思い出の一部の持ち帰りなど“感情のソリューション”を用意します。
親族間では、相続人の生活圏・負担感・将来の関与度を擦り合わせ、メモ(議事録)を残しておくと後の火種を減らせます。
(2)維持コスト vs 売却収益
固定資産税・都市計画税、火災保険、修繕費、草刈りや見回りなどの管理費を年額で見積り、5年・10年の累計と比較します。
想定売却価格から仲介手数料・測量・解体等の売却付帯費用を差し引いた「実手取り額」を試算し、維持に要する累計コストと損益分岐点を可視化しましょう。
老朽化リスク(雨漏り・設備寿命)も将来コストとして上乗せすると判断がクリアになります。
(3)利用可能性・代替案
「自分や子どもが使う可能性」はいつ・誰が・どのくらいを具体化します。
数年以内に高確度で使うなら維持、未定なら暫定活用(賃貸・定期借家・週末だけ使用)を比較検討します。
賃貸化は表面利回りだけでなく、原状回復・空室・管理手数料まで踏まえた実質収益で評価します。
民泊はエリア規制や運営手間を事前確認。最低限のリフォームで居住性を上げる“軽リノベ”も現実的な選択肢です。
(4)市場性・立地
人口動態、交通インフラ、再開発の有無、災害リスクなど立地の将来価値を見直します。
足元の取引事例(成約)と、売れ残りの在庫感(売出)を両方見て、価格と売却までの期間を想定します。
駅距離・道路付け・敷地形状・築年・用途地域などの評価ポイントで客観的な強み弱みを棚卸し、価格調整や現況有姿/更地渡しの戦略を設計します。
(5)税務・制度リスク
3,000万円特別控除(居住用要件・譲渡時期)や小規模宅地等の特例(要件・面積制限)、長期譲渡の税率など、適用の可否で手取りが大きく変わります。
将来の税制改正や固定資産税評価の見直しも“不確実性”として意識してください。
手続きの期限(相続登記、準確定申告、取得費証明の収集)や、解体・測量の費用対効果も併せて検討し、最終的な手取り見込みを比較しましょう。
売却時に必要な税金・手続き

実家や不動産を売るときは「いくら手元に残るのか」と「やるべき手続き」をセットで整理すると迷いが減ります。
ここでは、譲渡所得税・住民税と主な特例、確定申告、そして売却前後の実務手続きを流れで把握できるようにまとめました。
(1) 譲渡所得税・住民税(基本の考え方)
不動産を売って利益(=譲渡所得)が出た場合、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税が課税されます。
計算は、譲渡所得=譲渡価額−(取得費+譲渡費用) が基本です。
取得費には購入代金のほか、登録免許税や登記費用、不動産取得税、購入時の測量費、改良・増改築費などが含まれ、建物分は減価償却相当額を控除して計算します。
証憑が不十分で実額がわからない、または実額が譲渡価額の5%未満なら、概算取得費(=譲渡価額の5%)を用いることができます。
譲渡費用は売却のために直接要した費用(仲介手数料、契約書の印紙税、立退料、建物取壊費 など)が該当します。
税率は所有期間で変わり、判定は「譲渡した年の1月1日現在」の所有年数で行います。
5年超なら長期、5年以下は短期となり、短期のほうが税率は重く、長期のほうが軽くなります。
また、自宅(居住用財産)かどうかで使える特例の有無が異なります。
たとえば居住用の売却では、条件を満たせば3,000万円特別控除等の特例が使えるため、実際の居住実態や転居時期の確認が重要です。
相続空き家の3,000万円控除など、別の特例が適用できる場合もあります。
(2) 代表的な特例(控除・評価軽減)
特例は「併用の可否」や「一度きりの制限」があり、適用順で手取りが変わります。迷ったら「どの組み合わせ・順番で適用すれば最も手取りが増えるか」を基準に比較検討しましょう。
特例は併用可否や適用順で結果が変わります。
基本は「どの組み合わせ・順で適用すれば手取りが最大か」を軸に比較検討しましょう。
⚫︎居住用財産の3,000万円特別控除
自己の居住の用に供していた住宅(一定要件を満たすもの)を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
所有期間の長短は問いませんが、同一年内で重複適用はできず、ほかの特例(例:買換えや軽減税率など)との併用にも制限があります。
⚫︎被相続人の居住用財産(空き家)に係る3,000万円控除
相続した「実家」等を一定の条件で売ると、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます(対象期間:平成28年4月1日~令和9年12月31日の譲渡)。
なお令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合、上限は2,000万円になります。
控除は家屋(敷地を含む)1件あたりの上限で、相続人が複数なら持分に応じて按分されます。
⚫︎小規模宅地等の特例(相続税)
これは相続税の課税評価額を最大80%減額できる制度で、効くのは相続税のみです(譲渡所得税の軽減ではありません)。
相続時の負担を抑えることで、承継・保有・売却の選択肢を広げやすくなります。
⚫︎取得費加算の特例
相続税の申告が必要となった人が、相続開始の翌日から原則3年10か月以内にその相続財産を売却した場合、納付した相続税のうち一定額を「取得費」に加算でき、譲渡所得を圧縮できます。
適用期限の管理や、相続税申告書・評価資料など必要書類の整備が重要です。
(3) 確定申告(必要な場面・書類)
不動産の売却で利益(譲渡所得)が出た場合や、各種特例を適用する場合は確定申告が必要です。最終的に税額がゼロになるケース(譲渡損の発生や控除適用など)でも、要件充足の確認や特例適用のために申告が要ることがあります。
準備書類は、購入時・売却時の売買契約書、仲介手数料・測量・解体等の領収書、登記事項証明書、公図・測量図、固定資産税納税通知書、住民票・除票、相続関係の戸籍類、譲渡所得の内訳書(明細)や特例の付表など。
申告時期は原則として翌年の確定申告期間(例年2月中旬〜3月中旬)で、納付や住民税反映のタイミングも踏まえて資金繰りを整えておくことが大切です。
(4) そのほかの手続き・注意事項(実務)
相続による不動産の売却は、まず相続登記で名義を自身に移すことが前提です。
相続登記は義務化されており、期限や過料に注意が必要です。
古家を解体して売却する場合は建物滅失登記を行い、固定資産税評価や特例の要件との整合を図ります。
境界が未確定、または実測と登記面積に差異があると価格・条件・期間に直結するため、測量や筆界確認書の取得は前倒しで進めましょう。
不動産会社との媒介契約は専属専任・専任・一般で運用(報告頻度や広告方針)が異なり、仲介手数料は一般に「売買価格×3%+6万円(+消費税)」が上限の目安です。
売買契約・登記に向けては、付帯設備表や物件状況報告書、越境・私設管の有無、引渡し条件(現況有姿か更地渡しか)を詰め、表明保証の範囲を明確化したうえで、司法書士・税理士と適切に連携してください。
【参考資料】
国税庁|No.3252 取得費となるもの
No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
後悔しない売却のために今すべきこと

相続登記・名義整理を早めに進める 相続登記は売れる状態づくりの出発点です。
相続人が複数なら代表者と連絡体制を決め、戸籍収集→相続関係説明図→遺産分割協議書→相続登記(法務局)まで一気通貫で進めましょう。
共有名義のまま放置すると、将来の同意取りに時間がかかり、市況が良いタイミングを逃しかねません。
住所変更登記・抵当権抹消などの“付随登記”も同時に整えると二度手間を防げます。
①不動産の現況把握と修繕ポイントの洗い出し
屋根・外壁・基礎のひび、雨漏り跡、給排水・電気の不具合、シロアリ・腐朽、越境の有無をチェックします。
簡易インスペクションや耐震簡易診断で買い手の不安材料を先に可視化すると、価格交渉を有利に運べます。
軽微な補修(雨樋や網戸、通電確認、換気・清掃、残置物整理)は費用対効果が高い領域です。
逆に高額リフォームは回収不能になりがちなので、現況売り/更地渡しとの比較で判断します。
②複数社査定を取得し相場観を持つ
机上査定→訪問査定の順で3社以上に依頼し、価格・想定成約期間・販売戦略・レポーティング体制を比較します。
高値提示だけを根拠に選ぶと売れ残りのリスクが上がるため、成約事例の提示や在庫・反響データの説明が具体的な会社を優先しましょう。
仲介(時間はかかるが手取り最大化)/買取(手取りは減るがスピード・瑕疵リスク小)の二刀流で比較表を作ると判断がブレません。
③家族との合意・将来構想を共有
誰が何を望み、いつまでにどうしたいかを書面化(議事録)します。
売却方針、最低許容価格、費用負担(測量・解体・残置物処理)、引渡条件(現況有姿/更地渡し)、手取りの配分まで事前合意をしておきましょう。
将来の住替え・供養・思い出の品の扱いなど感情面の解決策も同時に決めておくと、土壇場の対立を避けられます。
代表相続人の委任状や押印方法も早めに確認を行いましょう。
④税理士・不動産の専門家に事前相談
売却前に手取りシミュレーション(取得費・譲渡費用・特例適用の順序)を実施します。
居住用3,000万円控除、空き家の3,000万円特例、取得費加算、小規模宅地(相続税)の影響など、適用可否と期限で手取りが大きく変わります。
測量・解体の可否やタイミングも税務と連動するため、税理士×不動産仲介×司法書士の三者で“最適な段取り”を事前設計すると安心です。
まとめ
実家を相続した後の「いつ売るか」は、税金・維持コスト・市場性(将来性)・家族の感情といった複数の要素が絡み合う設計の課題です。
特に近年は、生前贈与の見直し(持ち戻し期間の拡大や相続時精算課税の改正など)が実務に影響し、売却の順序や時期、名義の整え方によって最終的な手取りが大きく変わり得ます。
一律の正解はありません。
地域の需給、物件の状態(老朽化・耐震・越境等)、家族構成や相続人の意向、そして適用できる税務特例の有無を総合して、“今”売る・整備してから売る・暫定活用して見直すといった選択肢を比較検討することが肝要です。
そのための近道は、①早めの準備を進め、②家族で合意形成を行い、③専門家に事前相談をすることです。
この三本柱を押さえることで、感情にも数字にも納得できる、後悔のない売却タイミングに近づけます。
不動産の売買に関するご相談やお困り事があれば、売買の窓口までお気軽にお問い合わせください。
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